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最高裁判所第一小法廷 平成6年(オ)82号 判決

宮崎県都城市〈以下省略〉

上告人

東建設株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

冨永正一

尾崎純理

同訴訟復代理人弁護士

河野慎一郎

北村晋治

宮崎県都城市〈以下省略〉

被上告人

都北地区建設事業協同組合

右代表者代表理事

右訴訟代理人弁護士

佐藤安正

武内大佳

右当事者間の福岡高等裁判所宮崎支部平成4年(ネ)第225号除名決議無効確認等請求事件について、同裁判所が平成5年10月27日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあり、被上告人は上告棄却の判決を求めた。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人冨永正一の上告理由第1点及び第2点について

一 本件訴訟は、上告会社が、中小企業等協同組合法3条1号の事業協同組合である被上告組合に対し、被上告組合の総代会においてされた組合員である上告会社を除名する旨の決議の無効確認を求めるものである。原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1 宮崎県内の都城市及びその周辺の5町(以下「都北地区」という。)においては、昭和55年に都城市内の全コンクリート業者5社が都城地区生コンクリート協同組合(以下「訴外組合」という。)を設立したこともあって、生コンクリート市場は、売手優位の状況にあった。そこで、生コンクリートの買手である建設業者も同様に協同組合を設立することとなり、昭和59年4月18日、組合員のための建設資材の共同購買等の事業を目的とする事業協同組合として被上告組合が設立され、都北地区の建設業者のうち上告会社を含む146業者が組合員になった。その後、被上告組合の組合員は増加を続け、平成2年末時点では、都北地区約650の建設業者のうち350余の業者が被上告組合に加入していた。

2 被上告組合は、昭和60年7月1日、訴外組合との間で、被上告組合が訴外組合から委託を受けて生コンクリートを継続的に販売すること及びその販売価格を訴外組合と被上告組合との協議により定めることなどを内容とする委託販売契約を締結した。右契約の下で、被上告組合では、組合員が必要な生コンクリートを被上告組合を通じて訴外組合から購入する仕組み(以下「本件共同購買事業」という。)が採られてきた。

3 被上告組合の組合員は、都北地区内の工事について、ほとんど例外なく、被上告組合を通じて訴外組合から生コンクリートを購入してきたが、被上告組合と組合員との間に、組合員に専ら被上告組合が行う本件共同購買事業を利用する義務(以下「本件専用義務」という。)を負担させる旨の明示的な合意は存在しない。

4 上告会社は、平成2年終わりころから同3年初めころまでの間に、都北地区内の工事について、被上告組合を通じないで、宮崎市内の株式会社神生から3000立方メートルの生コンクリートを購入した(以下「本件購入行為」という。)。

5 被上告組合の定款13条3号には、被上告組合の事業を妨げ、又は妨げようとした組合員を被上告組合から除名することができると定められている。平成3年1月21日開催の被上告組合の臨時総代会において、上告会社の本件購入行為が被上告組合の右除名事由に当たるとして、上告会社を被上告組合から除名する旨の決議がされた。

二 原審は、次のとおり判断して、上告会社の請求を棄却した。

被上告組合の設立の経緯等からみて、被上告組合が行う本件共同購買事業は、被上告組合の唯一、絶対的、具体的な事業目的であり、被上告組合の組合員が右共同購買事業を利用することは、被上告組合の維持、存立を図る上で必要不可欠であり、被上告組合の組合員になった以上、組合員は、その義務として、右購買事業を利用することが要請され、本件専用義務を負うものというべきであり、実質的には、被上告組合と各組合員との間に専用契約が成立しているともいうことができる。したがって、上告会社が株式会社神生から大量の生コンクリートを購入した行為は、被上告組合に対する右義務に違反し、被上告組合の事業目的を積極的に否定するものであって、被上告組合定款所定の除名事由である「組合の事業を妨げた」ことに当たるから、本件決議は有効である。

三 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

私人間で一方が他方に義務を負担させるためには、法律上の根拠があるか、又は右義務を基礎付ける合意が存在することを要する。しかしながら、中小企業等協同組合法に上告会社に本件専用義務を負担させることを根拠付ける規定がない上、原審は被上告組合の定款に右のような規定があることを認定しておらず、証拠上右のような規定があることも認められない。また、原審の確定したところによると、被上告組合と上告会社との間に上告会社に本件専用義務を負担させる旨の明示的な合意も存在しないというのであり、被上告組合の設立の経緯が前記認定事実のとおりであるからといって、そのことから被上告組合と上告会社との間に黙示的に上告会社に本件専用義務を負わせる旨の合意が成立したと認めることもできない。したがって、上告会社に本件専用義務があるということはできず、右義務があることを前提として、上告会社の本件購入行為が被上告組合の定款所定の除名事由に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、以上に述べたところからすると、本件決議の無効確認を求める上告会社の請求は理由があり、これを認容した第1審判決は正当であるから、被上告組合の控訴を棄却すべきである。

よって、民訴法408条、396条、384条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 遠籐光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 籐井正雄)

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